CREATE05

スカ

息子
詳細無し
詳細無し

'07/08/04UP TIME4'39 出演:KKKKK

息子
〈九段下、武道館前に街灯が灯る頃、どこからともなく一軒の屋台が現れる。
うまい中華そばを300円でいただける隠れた名店。
連日、ライブ帰りの若者や、シメの一杯を求めによったオヤジたちで、店の外まで客が溢れる。
店主に言わせれば、〉
だからな、年200万の学費払うより、300円のラーメン食う方が幸せになれるだろ?
息子
〈儲けという儲けは雀の涙。それでも続けているのは、客のバカ笑いを聞くのが好きだかららしい。
しかし、妻に子供1人。養っていくに妻のバイトは必要不可欠。
愚痴ひとつ言わず、好きな人を支える彼女は常に、凛としていた。
息子は、つまり僕は、美大進学を望んでいる。
けれど、それは両親には秘密だ…いや、心中見透かされていた。
父に言わせれば、〉
だからな、年200万の学費払うより、300円のラーメン食う方が幸せになれるだろ?
息子
〈首にタオルを巻き、さわやかな汗と笑顔で語る父。僕は何も言い返せぬまま、〉
…だね。
〈とだけ呟いた。沈黙の刹那、ズンドウへ背を向けて父は再び店主へ戻っていった。
次の日、ケータイに耳を貸すと父の声が短く、〉
店に来い
息子
〈反抗期を拒絶した父である、おとなしく僕は九段下の名店へ向かう。
ちょうちんはまだ灯っておらず。着いて早々、〉
いいか。4本の割り箸には、大当たりが1つ、スカが3つ入ってる。
大当たり引けたら、大学へ行け。わかったな?
息子
〈面食らうも束の間、眉間にしわを寄せた形相が、握り拳を突き出してくる。
人生賭けたギャンブル、この選択が一生を左右する分岐点。
まだ一言も言葉を発さぬまま、僕は左から2番目の割り箸を指差す。
ゆっくりと割り箸が抜かれていく…。BGMが武道館から流れている。
箸の裏に結果が出てる。父の顔はノーリアクション。右手がひっくり返された。
「大当たり」
真っ赤な文字で確かに。間違いなく、大当たりだ!〉
おいっ、喜べよ
息子
〈あまりの衝撃に感嘆の雄たけびすらあげられない。
硬直する僕を尻目に、ひざで4本の割り箸を折る父。
青いポリバケツに捨てる瞬間、僕は見てしまった。
割り箸すべてに「大当たり」と書いてあることを…〉
マジっスか?
〈ようやく口から出た言葉にだけ「スカ」が入っていた〉

後藤は待ちながら

後藤 明 (ごとう あきら)
詳細無し
青年
詳細無し
ト書き
男の荒い息づかい。
エスカレーター駆け上がる足音。
音声
伊丹~、伊丹です
ト書き
関西は兵庫県、伊丹駅(いたみ)。
発車を告げる「プルルル」。
音声
閉まる扉にご注意ください
後藤
待って、乗る乗る!乗りまぁ~~
ト書き
プシュー。電車、遠のく。
後藤、ケータイでTEL。
後藤
もしもしお疲れ様です、後藤です。
すいません、今ですね、電車逃して次が15分ばかし…
全然、ミーティングは始めてもらって、…はい
…すみません。急ぎます
ト書き
通話終了。溜息。
後藤、煙草にZippoの火。吐く煙。
青年
すみません
後藤
あぃっ?
青年
私にも1本頂けませんか?煙草
後藤
…どうぞ
ト書き
着火。
青年
ありがとうございます
後藤
いえ
ト書き
青年、一服も激しくむせる。
後藤
大丈夫ですか?
青年
…煙草、初めてでして
後藤
吸ったの?
青年
はい
後藤
えー
青年
毒ですウワサ通り。半ば凶器に等しい
後藤
初めてだもの
青年
良い子の皆は絶対にマネしないように
後藤
そうね
青年
あなたは?
後藤
へ?
青年
良い子ですか?悪い子ですか?
後藤
俺とっくに成人だからさ
青年
聖人!?「聖なる人」と書いて?
後藤
そして悪人(笑)
青年
聖なる悪人ッて何ですか?
悪のヒーロー、デビルマン?
デビーール
後藤
失礼、…どちら様?
青年
人にものを尋ねる時は、まず自分から
後藤
(名刺)WEBデザイナーをしております、後藤と申します
青年
後藤明
後藤
えぇ
青年
今日はなぜ遅刻を?
後藤
見てたの?
青年
見えたのです、大声がして
後藤
そっか。
てか、オタクの紹介済んでないぞ
青年
生憎、名刺を海に落としてしまった
後藤
バカな
青年
決して怪しい者では、ございます
後藤
言い切ったよ
青年
さて、デビルマン
後藤
後藤です
青年
なぜ遅刻を?
後藤
…別に、単に寝坊ですよ
青年
夜更かしされた?一体何を遅くまで
後藤
……
青年
悩みは打ち明けるだけで胸がスッとします、遠慮なさらず。
私とは一瞬でお別れなのだから
後藤
…一身上の都合で辞めさせて頂きます
青年
辞表ですか?
後藤
まぁ
青年
退職願おうと。
理由は?是非お聴きしたい
ト書き
後藤、メガネをつつく。
後藤
コイツ
青年
メガネ?
後藤
1.5あった視力が、3年足らずでメガネ。
そこの桜だって、外せばホワイトのベタ塗り
青年
もったいない
後藤
さすがに仕事のせいでメガネはありえないっしょ?
青年
だからッて、
後藤
いや、最近頭痛も酷くて、
本当気狂っちゃうんじゃないか怖いんです実は。
そうなる前に、リセットする
青年
リセット?
後藤
人生。
でさ、無人島行って、青々とした草原を全裸で駆け回るワケ。
緑は視力回復に効くッて言うじゃないですか?
グリーン見て、眼をクリーンにする感じ。たまらん!
青年
後藤さん
後藤
ブルーベリーがっつく!
青年
いけません!
後藤
えっ?
青年
煙草だって、苦しくも吸い続け、ようやく美味さを実感するもの
後藤
死んだ魚の眼でも?
青年
名誉ある負傷です
後藤
シャーペンで字間違えた時、左手でコントロールZですよ?
色んな意味でイタイでしょ?
青年
職業病なんて勤勉な、誇りを持たねば
後藤
ムリムリ。
いいんスよ、とりあえず3年やったし。
レールの上の人生なんて、土台向いてないんです
青年
安定した生活は?
後藤
さようなら
青年
確かに、聖人の遺体は腐敗せず残ります。
復活の可能性も無くは無い。
けれどイコンのまま、崇拝されるのがオチでしょう
後藤
…何の話?
青年
後藤さん
後藤
はい
青年
こうなったら、固定概念リニューアル。
仕事の痛みを快楽に変換するのです!
後藤
はっ?
青年
痛みを負って仕事をこなします。
サイトが完成、顧客は大喜び。
己を犠牲にしてまで、誰かを幸せにする。
素晴らしいと思いませんか?
後藤
(拍手)
青年
後藤さん…
後藤
(拍手)
青年
真顔で拍手しないでください!
後藤
他人の幸せね…、二の次ですよ
青年
恥ずかしくないのか!?
後藤
怒鳴った
青年
あなたは聖人ではない!
自己中心的、耳障りな言動
後藤
たんま
青年
倫理の欠片も失っている
後藤
誰なんですか?
青年
エルサレムへ飛びなさい
後藤
宗教の勧誘?
青年
聖書を読んだ事はありますか?
後藤
いいや
青年
読まずして聖人を語るか…冒涜だ。
悪魔狩りの的になれ
後藤
悪魔ッて
青年
助かりたくば一読を。無料で差し上げます。
不安定な心に神は救済を施す
後藤
いらないよ
青年
悔い改めなさい
後藤
どけッて!気持ち悪ぃ。
…ほらっ、仕事に身を捧げた結果、
頭おかしいあなたみたいな人間が出来上がるんだ!
青年
嘆きの壁で嘆け
後藤
これ以上近づくと、根性焼きッスよ
青年
(笑)試します?
後藤
えっ?
青年
根性、あるか否か
ト書き
「ジュ~~…」。
煙草、手の甲にすり込む青年。
後藤
うあッ、…な、何してんだ?
青年
寒いよぉ
後藤
やめろ
青年
寒い…凍えてしまう
後藤
冗談キツイわ
青年
いっそ、私の脂を燃やしてください。
夜の海の灯し火に、照らすだけのホムラに
後藤
意味わかんねぇ
青年
たとえ救う光になれずとも。
束の間のあたたかさを、皆に与えたい。
痛みが幸せに変わるのなら、私の肉を100辺焼いても構いません
後藤
畜生
青年
どうか私を生贄に
後藤
一体何見てんだこの眼は!
青年
神よ…
ト書き
青年、煙草を離す。
青年
後藤さん
後藤
……
青年
後藤さん。次はあなたの番です
後藤
えっ?
青年
人にものを尋ねる時は、まず自分から。
きちんと私から焼きました
後藤
何で、俺が
青年
治療の一種です。
精神的苦痛を肉体へ転化させる。
リストカットを想い浮かべてください
後藤
待ってくれ
青年
煙草を点火させる。
お灸をすえるだけ
後藤
痕残るだろうが
青年
お手を、拝借
後藤
よせッ
青年
痛みに耐える根性あらば、第二の人生も約束される。
悪魔祓いを、さぁ早く!
後藤
おいっ
青年
捕まえた~
後藤
誰か、助けてください!
青年
(笑)
後藤
嘘だろ?
青年
(笑)
後藤
…誰もいない。どうして
ト書き
「ジュ~~!」
後藤へ根性焼き。
後藤
あああああああああああああああ
青年
熱いか?
苦しみは最初の刹那、我慢しろ。
悪魔が去れば、快楽へ誘われる。
だが痛みこそ、あなたがここに居る理由そのもの。
生きてる内しか体感できぬ最後の晩餐、味覚で味わいなさい。
触覚で、嗅覚で、聴覚で、視覚で…見つめるのです、自己犠牲が何たるか。
気持ち良くなってきましたかぁ~、後藤さん?
後藤
アアッ!いい加減にしろッ!!
ト書き
青年を振り払う後藤。
後藤
ぁぁぁぁぁ…
青年
あっけない。
…煙草がまだ刺さってますよ
後藤
うっぜぇ、なあああ!
ト書き
後藤、煙草踏み消す。
青年
あーあ、残念。
悪魔はへばりついたまま、ご愁傷様。
痛みを耐えられない人間に、再起はございません
後藤
関係ねぇだろ
青年
あります。
根性無しは嫌になればまたすぐ辞める
後藤
お前には関係ねぇだろうが!
人の悩みに付け込みやがって、所詮宗教の勧誘しか眼中にない癖に。
俺はここで、何もかもリセットして人生やり直すんだ、モンクあっか!
青年
…そうですか。(溜息)
仕方ない。では、ご自由に
後藤
大体、はなっから口出す自体どうかしてんだよ
ト書き
突如、船の汽笛「ブゥーーー…ブゥーーー」。
次第にクレッシェンド。
後藤
何だ?
青年
おっと、時間ですね
後藤
船だ。…船が
青年
珍しいですか?
後藤
ティ、タ…ニック
青年
タイタニック
後藤
え?
青年
4月14日氷山に衝突。
沈むんです、この船
後藤
夢でも見てるのか俺
青年
視覚を失った分、幻覚が見えるのかもしれません
後藤
にしても、デカイ
青年
さてと…
ト書き
歩きだす青年。
後藤
どこ行く?
青年
終点まで。
一度、銀河鉄道で乗り換えですが
後藤
乗っちゃダメだ
青年
私も遅刻していた。
10日間さまよっていましたから
後藤
あなたは…誰ですか?
青年
…お先に失礼します
ト書き
そこへ電車が突っ込む。
タイタニック消失。
後藤
…消えた。
ん?あれま、オーバーランだよ
音声
伊丹~、伊丹です
後藤
焼け痕も消えてる…(笑)やっぱ頭おかしいな
ト書き
発車を告げる「プルルル」。
音声
大変お待たせ致しました。
まもなくの発車です
ト書き
後藤、乗車。
後藤
やめよう…仕事
音声
閉まる扉にご注意ください
後藤
リセットだ
ト書き
プシュー。電車、走る。
後藤
〈…こうして、俺は、
2005年4月25日9時16分、JR福知山線に乗車した〉
ト書き
スピード上がる。
早まる車輪音。
そして…脱線。

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