メカヒト
- 汐川 ゆる (しおかわ ゆる)
- 影が薄く、臆病。
友達をつくるのが苦手で、引っ込み思案。
新生活に胸を膨らますも、結局孤立。
以後、アンドロイドに依存する。
- Β (ベータ)
- 心を持った人型家電製品。
容姿は、20代男性を模している。
時代とともに型が古くなり、メーカーサポートも無くなる。
いたる所に欠損や傷あり。
'09/06/25UP TIME13'25 出演:桜木きお , KKKKK
- ト書き
- 都市の雑音。
ゆる、買い物帰り。
鍵。ドア開閉。
- ゆる
- はぁ…
- ト書き
- 蛇口よりコップ一杯の水。
- ゆる
- …まずぃ。
〈大学進学を機に、私は実家を離れ、上京した〉
- ト書き
- マンションの呼び鈴。
- ゆる
- ぁ、はーいッ
- ト書き
- ゆる、コップをシンクに。
ドア開ける。
- ゆる
- 〈娘の一人暮らしを按じた父親は、私の元へアンドロイドを〉
- ト書き
- 逆再生。
「をドイロドンアへ元の私」。
- B
- 〈娘の一人暮らしを按じた父親は、彼女の元へ私を送るよう頼んだ〉
- ト書き
- ドア閉める。
おぼつかない足取り。
ダンボール置く。開封。
- ゆ&B
- 〈組み上げられていない、バラバラの四肢が届く〉
- ト書き
- マニュアルめくるパラパラ。
- ゆる
- 〈私はマニュアル片手に、パッケージ通りの〉
- B
- 〈私を復元した〉
- ト書き
- ボタンを押す。
- ゆる
- わっ!
- B
- しばらくお待ちください…
- ゆる
- 眼、開いた…
- B
- …フォーマットが完了しました
- ゆる
- 〈その精巧さは、遠目に見れば人間と寸分違わない〉
- B
- 〈センサーが目の前の彼女を視認する〉
- ゆる
- 〈瞬き、〉
- B
- 〈透き通る〉
- ゆる
- 〈呼吸、〉
- B
- 〈黒い瞳が、〉
- ゆる
- 〈肌〉
- B
- 〈私の顔をなめるように観察していた〉
- ゆる
- 〈感動を超えてむしろ、私はその一瞬、女性である意味を剥奪された。
人はいつの間にか、人を創れるようになっていたのだから〉
- B
- ……
- ゆる
- はじめまして。
(笑)…よろしくね
- ト書き
- ファイル保存。
- B
- 〈それが、最も古い彼女のファイルだった〉
- ト書き
- 10年後。
- ゆ&B
- 〈歳月は流れ、〉
- B
- 〈彼女と私の暮らしは日常に馴染んだ〉
- ゆる
- 〈私と彼の暮らしは日常に馴染んだ〉
- ゆ&B
- 〈病に臥した時も、〉
- B
- 〈彼女は廃棄せずに優しくパッチを当ててくれた〉
- ゆる
- 〈彼は命令せずに優しく頭を撫でてくれた〉
- ゆ&B
- 〈そう――気づけば、〉
- B
- 〈私の方が彼女に支えられていたのだ〉
- ゆる
- 〈私は彼に恋をしていたのだ〉
- ト書き
- 回想。
同居して7ヶ月、雨の駅。
- ゆる
- あめ…。
〈予報が外れた雨の夜〉
…ぁ。
〈駅前で佇み、傘も差さず、主人の帰りを待ちわびる機械。
ショートする関節も余所に、私の為に、一本の傘を抱きしめて…〉
- ト書き
- B、ゆるの元へ。
- B
- ……
- ト書き
- ゆるにだけ傘を差す。
- ゆる
- ……。
〈言葉が出なかった。
それからというもの、彼の顔を見る度、私は錆びついた頬にほっぺをすり寄せていた〉
- B
- 〈ぬいぐるみをいつまでも捨てられない少女のように、彼女は錆ついた頬にほっぺをすり寄せてくれた。
もはや右腕の関節すら動かないのに、にも拘らず大切に、ずっと傍に…〉
- ゆる
- 〈彼さえ傍に居てくれれば、他に何も望まない〉
- ト書き
- 雨霧に溶ける二人。
回想、了。
雫。
- B
- 〈でも、彼女の人生は孤独そのものだ。
時と皺を刻み、終ぞ誰一人として部屋に招く事をせず。儚く消費し続けた命〉
- ト書き
- ドクン――。
ゆる、喀血。
50年後。老婆の掠れた息吹。
- ゆる
- 〈脈が重い。
たぶん寿命が訪れたのだろう…〉
- B
- ……
- ゆる
- 〈それでも、私は嬉しい。だって、こうして最後まで彼の手を握れるのだから〉
- ト書き
- ドクン――。
- ゆる
- 〈ただ、失明する前にもう一度だけ、あなたの笑顔が見たい〉
- ト書き
- ドクンッ――。
- ゆる
- おはよう
- B
- おはようございます
- ゆる
- 行ってきます
- B
- お気をつけて
- ゆる
- ただいま…
- B
- お帰りなさい
- ゆる
- おやすみ
- B
- おやすみなさい
- ゆる
- (涙)…ありがと
- B
- いいえ
- ゆる
- 〈残留した思い出。それは、あなたと過ごした走馬灯。
けれど、疾走する記憶の断片に、本物の人間は、一人も描かれていなかった…〉
- ト書き
- ドクンッ――!
- ゆる
- 〈私は……幸せだったのだろうか?
死の淵で、ごまかし続けた孤独が溢れ出てしまった〉
- ト書き
- ザ――。
ゆるを看取るB。故障。
- B
- 〈ノイズが激しい。
たぶん寿命が訪れたのだろう…〉
- ゆる
- ――
- B
- 〈それでも、私は嬉しい。だって、こうして彼女の最後を看取れたのだから〉
- ト書き
- ザザ――。
- B
- 〈彼女は……幸せだったのだろうか?
この感情は、〉
- ト書き
- ザザッ――。
- B
- 〈処理しきれな……〉
- ト書き
- ザ――、ブツッ。左耳、消音。
- B
- 〈左のチャンネルからは音が消え、双眼は光すらも断線した〉
- ト書き
- ビープ音。
- B
- 深刻なエラーが発生しました。直ちに強制終了します。
〈ただ、イカれる前にもう一度だけ、あなたの声が聴きたい〉
- ゆる
- ――
- B
- 〈残留した思い出。それは、最も古い彼女のファイル〉
- ト書き
- ファイル検出。
- B
- このファイルを再生しますか?
〈彼女の声ヲ。
子守唄代わリ、に――最後のマばタキをしテ…〉
- ト書き
- 再生。
- ゆる
- はじめまして。
(笑)…よろしくね